| 人形作りゴルディ−さん
あとがき
作:M.S.ゴッフスタイン
訳:菊池京子
ゴルディー ローゼンズワイグさんのお母さんとお父さんはもう亡くなったのでゴルディーさんは今、ご両親の家に1人で住んでいます。かつてお父さんがやっていたように木を彫って人形の形を作り、かつてお母さんがやっていたように洋服と愛らしい顔を描きます。御両親は8年間の間人形を作ってきました。ゴルディーさんもここ4年間できるだけたくさんの人形を作り売っています。注文はいつも1人でさばけないほどきます。
ゴルディーさんは木の切れ端からどんな顔ができるか静かに、そして一生懸命考えています。頭の部分と体の部分を削り始めると仕事机で横になることもベッドで寝ることもしません。小さな木の切れ端からいのちを見つけるまではそうしちゃいけないと思うからです。木を入れてあるかごの中から人形にぴったりな手と足を見つけ出すまで仕事は続きます。
ちょうどいい形の手と足が見つかるとそれを机の上に置き、彫り上がった人形をポケットの中に押し込んでゴルディーさんは晩ごはんの準備に取りかかります。
かわいい 1対の手とくつをはいた1対の足を作り上げるのに、ゴルディーさんは一晩中長さを測ったり彫ったりします。手と足が動くように人形の体にピンを止め、それが終わった時外はもう明るくなっています。それからゴルディーさんは寝ます。ゴルディーさんの関節はカチコチで人形の関節よりも硬くなっています。
ゴルディーさんは昼ごろベッドから起き出し、また今作っている人形のことを考えます。ベッドからまっすぐ仕事机に向かい、じっと人形を見つめています。それから小刀を取り出し、かわいらしく、そしてこの人形を買ってくれた人が抱くのに手ごろのいい大きさにていねいにていねいにしあげていきます。ゴルディーさんはまだナイトガウンを着たままです。昼も終わり近くなった頃、ぶどうパンとお茶を飲み、顔を洗ってまた仕事をします。
日暮れになってようやく人形は出来上がりました。ゴルディーさんは部屋を掃除し、もう一度人形を見てすべてがきちんとなっていることがわかると、シャワーをあび、髪をとかし、洗濯したナイトガウンに着替えます。それからドアのそばにすわります。ひざの上で手を組んでゴルディーさんの人形の箱を作ってくれている大工さんのことを考えます。
その人はオムス ハーシュバインさんと言ってハンサムで、やさしくて、ゴルディーさんと同じ年ごろの人です。ゴルディーさんが大工さんのことを考えるのはその人も木から物を作っている人だからです。ゴルディーさんと大工さんはいろんな面で似ているのでいい友達になれるだろうとゴルディーさんは思っています。
次の朝、ゴルディーさんは絵の具を取り出し人形に塗るためにていねいに混ぜます。それからピンクがかった褐色の絵の具で顔を、次に首、耳、腕、手と塗り乾くのを待ちます。その間、たんたんとぶどうパンを食べお茶を飲み、それから光った濃い茶色で人形の巻き毛を塗ります。人形の体の部分には白い下着とちょうどいいズボンを、足にはねずみ色のストッキングとかわいらしい黒の靴を塗ります。次に片手で人形の腰のあたりをぎゅっと持って黒色の絵の具で片方の目を塗り始めます。ゴルディーさんは人形の目を見つめやさしく愛らしくほほえみかけます。そのほほえみが人形の顔に描かれていきます。
人形のほほえみはたくさんの人を引きつけます。だからゴルディーさんの人形を売る店はいつも在庫を切らし、注文は請け負えないほどきます。このように愛らしいほほえみをしている木の人形はどこででも見つけられるわけではありません。だから、ほかの人形を買ってしまうのです。何も買うつもりがなくてもゴルディーさんの人形に出会ったなら買ってしまいます。ゴルディーさんの人形のほほえみに引き付けられてしまうからです。
ゴルディーさんの人形を抱くと心はあたたかくなり何回も何回もキスしたくなるでしょう。どこへでも連れて行きたくなるでしょう。人形のために1番いいたんすを用意したくなるでしょう。このようにゴルディーさんの人形といるとほんとうに幸せになれるのです。
ある日、ゴルディーさんは外出する前にできあがった3つの人形を向き合うようにして仕事机の上に置きました。急いでブーツをはき、ジャケットに手を通し首元でハンカーチーフを結びました。“ 今から箱をもらって来るからね。”と言い、それから”あまりおそくならないからね。”と付けたして御両親の家をあとにしました。
野原を横切るとそこは小さな森です。森に入るとゴルディーさんはゆっくり歩きます。そこで人形を2つ以上作れるすばらしい木を見つけました。それからゴルディーさんは大工さんの店に来ました。“ゴルディーさん、こんにちは”大工のオムス ハーシュバインさんはゴルディーさんにあいさつします。“今日はなにがお入り用ですか。”“3つまた人形を作ったので、その箱がいるんです。”“はい、わかりました。1時間で1つはできると思います。”“ほんとう?わたし、今から町へ買物にいくので、この木を預かってもらえないかしら。” “もちろんいいですよ。でも、私のところにたくさん木の切れ端がありますよ。”“のこぎりで切った木はきれいすぎるでしょう。たから、”ゴルディーさんは首を横に振りながら言いました。“でも、御両親は使っていたでしょう。ちょっときずのあるものをとってあるんですよ。”“ええ、ありがとう。でも、わたしどうやって使ったらいいのかわからないので、”“森の木だとちがうんですか。” “のこぎりで切った木はなんだかほんとうの木じゃないみたいで、人形を作る気がしないんです。生きているんだと思えないんです。”
オムスさんはかぶっている帽子を後ろに押し頭を掻きながら、“ゴルディーさん、そういっても人形は人形ですよ。”と言いました。“わかっているの、でもわたしは人形を作っているの。だからわたしにとってはたんなる人形ではないの。人形だと思ったら作れないの。わたしだけじゃないのよ。わたしの人形を持っていてくれる女の子だってたんなる人形だとは思っていないわ。”“わかりましたよ。わかりましたよ。”オムスさんは笑って言いました。“ゴルディーさんの言うとおりです。”
オムスさんは木を受け取ってそれを店の中に入れました。オムスさんの店を出た後ゴルディーさんは町に向かって歩いていきます。
お日さまは頭の上からきらきらと照らし風がこずえをゆらします。通りには木の葉の影が点々とできています。ゴルディーさんはときどき立ち止まり店の中をのぞきこんでいます。とてもしわせな気分です。ゴルディーさんはほの暗いほこりっぽい金物屋で人形のつめを1パウンドと青色の絵の具を買いました。店の主人のゴディスマンさんは肉づきのいい手をこすりあわせながら眼鏡の奥からほほえみかけます。“これはこれはゴルディーさん、商売繁盛ですね。おかげでわたしももうけさせてもらっていますよ。御両親よりたいへんな御成功ですね。”“私の父も母も商売のことはあんまり考えなかったので”“頼んでおいた小さいピンはまだ届いていないのかしら。”“まだなんですよ。あれは特別注文ですから。特別注文は時間がかかるんです。”ゴディスマンさんは大きな声で言いました。”それじゃまた来週寄ってみるわ。”そう言ってゴルディーさんは外に出ました。
“ゴルディーさーん”パン屋のスターンさんが呼んでいます。“たった今、釜からでたばかりのぶどうパンはいかが。”“ほんとう”ゴルディーさんが店の中に入ってみるとほんとうにおいしそうなできたてのパンのにおいがしてきました。スターンさんは私は本当ことしか言わないでしょというようにほほえんでいました。ちょうどその時女の子が店に入ってきました。なんと手にはゴルディーさんの作った人形を抱いています。“ここにあるものどれでもあげましょ。 どれがいい”
“ロージーちゃん、あのね”スターンさんはゴルディーさんに目配せしながら女の子に話しかけました。“だめよ”ゴルディーさんはスターンさんに首を振りながら小さな声で言いました。ゴルディーさんは恥ずかしいような誇らしいような気持ちでした。女の子が大きな丸いさとうクッキーをもらって表にいるお友達のところに行くまでじっとその女の子を見ていました。
“すてきじゃない”ゴルディーさんはスターンさんのことばにうれしそうにうなずきます。“さっきはごめんなさい。人形をわたしが作ったとおしえるのはいやなの。 どうしてだかはっきりわからないけど”ゴルディーさんはぶどうパンを1ダース買ってスターンさんにあいさつをして外に出て行きました。ゴルディーさんのお気に入りの店に向かうためです。
ソロモンさんは世界中からいろいろなきれいな物を輸入してそれを店で売っています。ゴルディーさんの人形も手に入る限り仕入れ売っています。ゴルディーさんがちょっと暗くていい香りのするソロモンさんのお店の入ってきた時ソロモンさんはちょうど立ち上がるところでした。“こんにちは、ゴルディーさん、お店に置く人形を持ってきてくれましたか。”“すみません、まだなの。来週には持ってきますね。 今日はお茶を買いに寄ったの”“ちょうど新しい種類のお茶を仕入れたばかりなんですよ。お気に召すと思いますよ。”ソロモンさんのことばをゴルディーさんは聞いていません。床にひざをついてエキゾチックなかわいいランプを熱心に見ています。
“あっ、それは中国からきたランプですよ。” “なんてかわいらしいんでしょう。”ゴルディーさんは繊細なまるい磁器の部分を指でなでながらためいきをつきました。“お目が高いですね。 送る前に見ていただけて光栄です”ソロモンさんはほほえもながら言いました。ソロモンさんの金歯が見えます。“どうして、だれかもう買ったの。もう売れてしまったの。”か細い声でゴルディ−は尋ねました。“だれが買うもんですか。こんなちっちゃな物にこんなたくさんお金を払う人なんていませんよ。”ゴルディーさんはかすかに光る底の部分をさわり、ちょっとカーブした木のスタンドをじっくり眺めました。それからソロモンさんを見上げました。“そういうことだからね。兄の店に送るつもりなんです。兄の店にはお金持ちのお客さんがいますから気に入って下さる方がいらっしゃると思うんですよ。”そう言ってソロモンさんはかなしそうに首を振りました。そしてお茶を量りに奥に入っていきました。
ソロモンさんが奥にいる間、ゴルディーさんはずっとランプを見ていました。ソロモンさんが戻ってきた時、ゴルディーさんは思い切って尋ねました。“ソロモンさん、私の人形が27個売れたらこれを買えるんですよね。”“このランプをお買いになるつもりですか。”“だってこんなにきれいなものを見たことがないんですもの。”“そうですか。ちょっと考える時間を下さい。”ソロモンさんが金歯を鉛筆でかちかちと鳴らしながら考えている間ゴルディーさんはただぼんやりと店の中をながめていました。どのぐらいたったでしょうか。ソロモンさんが言いました。“ローゼンワイグさん、私たちのつきあいはすいぶんになりますね。わたしもゴルディーさんの人形のおかげで商売をさせてもらっています。このランプを特価にして差し上げましょう。” “ほんとうですか。どうもありがとう。”ソロモンさんはこれで決まりというように片手を挙げました。“ゴルディーさんが買ってくれたので荷造りの手間が省けましたよ。”ソロモンさんはランプをさして“ゴルディーさん、あなたならこのランプのよさがわかりますよ。”と言いました。“はい、もちろんわかっています。” “定価から1/3引いて差し上げましょう。それに今日お持ち帰りになってもいいですよ。”“でも、18個の人形を作るのに3ヶ月はかかります。”“わかっていますよ。 支払の人形を作っている間にもどうぞお楽しみになってください。”そう言ってソロモンさんはランプが入っていた木箱を探しに奥に入って行きました。ゴルディーさんがお茶のお金を出して待っているとソロモンさんは手を振りてゴルディーさんに言いました。“お茶は私からのプレゼントです。毎日こんなことをしているわけではありませんので御心配なく”
ソロモンさんの店を出ると外はもう暗くなり始めていました。ゴルディーさんはたいせつにランプの入った箱を両手で抱え落ち葉の落ちた道をオムス ハーシュバインさんの店まで帰ってきました。オムスさんは箱の中国語を見つけ興味深々の顔でたづねました。“何を買ったんですか。”“中国製の人形箱を使い始めたんじゃないでしょうね。””まさか”ゴルディーさんは笑いながら答えました。“中国から来た品物を買ったんです。”そう言ってゴルディ−さんはオムスさんの店の中に入り箱を丁寧にテーブルの上に置きました。“お見せしますね。”それからゴルディーさんは箱の中から小さいランプを取り出してカウンターの上に置きいました。“ご覧下さい。きれいでしょう。”“かわいいですね。”オムスさんは言いました。“でも、あんまり明るくないですね。”“ええ、でもよく見て下さい。形もいいし、塗りもいいでしょう。”オムスさんはもっとそばに寄ってランプを見ました。値段札がありました。“この値段で買ったの。”オムスさんはびっくりしてききました。“この値段の2/3で。でもお金じゃないの。人形で払えばいいの。定価で買わなくてもよかったのよ。本当はもっと高かったのに。わたし、こんなきれいな物今まで見たことがなかったわ。”“わかったよ。君は本物の芸術家だよ。”オムスさんはゆっくりと言いました。ゴルディーさんはうれしさのあまり顔が真っ赤になりました。“どうしてそう思うの。”オムスさんにたずねました。“君がおかしいからだよ。”“えっ”ゴルディーさんは精一杯笑おうとしました。“木箱ができているよ。この中に預けてあった木と紙袋を入れているよ。このほうが持ちやすでしょう。” “どうもありがとう。”ゴルディ−さんはようやくそれだけ言ってランプをもとの箱にしまいオムスさんの店を出ました。ランプを買った時のうれしさはすっかりなくなっていました。重い心をひきずりながら暗くなった森をぬけ野原に出ました。明日ソロモンさんのところに行って返してこようとゴルディーさんは真剣に考えていました。
オムスさんの行ったとおりだわ。きれいでも実用的でもない物にこんなに高いお金を使うなんて私はやっぱりおかしいんだわ。明るくもないし、 3ヶ月の間ごはんがろくに食べられないかもしれないのに。人形の足や手にくっつけるピンや絵の具、それに人形を入れる箱も買わなければいけないのに。
やっと家に着きました。こわくて心細くてまるで初めての家に来たようにです。座る気もベットに横になる気もしません。ゴルディーさんは中国文字の箱を脇におしやりました。箱のそばには月の光に照らされて3つの人形が立ってます。
ゴルディーさんは身も心もからっぽになったようでした。でも痛みはちゃんと感じました。体がバンバン殴られているようです。いつのまにかドアのそばに座っていました。
どのぐらい座っていたでしょうか。体の中から “さびしい”という声が聞こえてきました。“わたしもさみしい。” ゴルディーさんも答えました。それから座ったまま静かに泣きました。ゴルディーさんはいつしか眠ってしまいました。
ゴルディーさんは夢を見ていました。夢の中で誰かがゴルディーさんの肩をたたきます。“もしもし”あたたかくてていねいな声です。“はい、わたしのこと”ゴルディーさんはその声に答えます。“あなたが買ったあのランプ”“ええ”“わたしが作ったんです。”“まあ、そうですか。とてもきれいですよ。”“たから、わたしたちはもう友達なんです。”“でもわたし、まだあなたのことを知らないわ。すこしでも知っていれば...”“あなたはわたしのことをよく知っていますよ。あなたはわたしが毎日顔をあわせているだれよりもわたしのことがわかっていますよ ”笑いながらその声は言いました。“あなたはだあれ。”“わたしはあなたが今日買ってくれたランプを作った者です。”“まあ、ほんとうに”ゴルディーさんの顔がぱっとかがやきました。“でもあなたはわたしのことを知らないわ。”“もちろんわたしはあなたのことをよく知っていますよ。だってわたしはあのランプをあなたのために作ったんですから。だれのためよりもあなたのために。”ゴルディーさんは大声で笑いました。“わかったでしょう”大きな声でこたえました。“はい、よくわかりました。”ゴルディーさんもこたえました。“わたしは木を彫り人形に洋服を塗り顔を描く。あなたも同じようにして作ったのね”
夜もふけた頃、ゴルディーさんは目を覚ましました。仕事机のところに行って箱からランプを取り出していねいに机の上に置きました。そして火を灯しました。それからゴルディーさんは腰掛けランプのまわりに描かれている風景をじっと見ました。
小川のそばで中国の家族がピクニックを楽しんでいます。小川の下ではかわいらしい柳があります。 2人の子供が小川に花を流して遊んでいます。それを長いきものを着たお年寄りと女の人が赤いいすに座って見ています。美しい3人の女性が地面にひざをつき、細くてきしゃな指で食事の準備をしています。その女性の後ろにはやさしげなハンサムな男の人がほほえみながら立っています。1つ1つの線が生き生きとしており深味のある色で仕上げられています。
ランプのまわりには荒々しい黒と白の馬が力強く走り、跳ね、後足で立って入るとようすが描かれています。馬のしっぽとたてがみは落ち着いた渦を巻いています。ランプの底の部分も今まで見たものとはまったく違います。木でできたまるい脚のついた黒色の底はランプがそこにきちんと落ち着くようにすこし曲がっています。
ゴルディーさんはふぅーと大きな息をしてから部屋を見回しました。
家はすぐ見回せるほど小さかったのです。やさしくてあたたかい光を放つちっちゃなランプは家にぴったりでした。“わたしの家”ゴルディーさんは初めてそう思いました。“わたしのかわいいお家、ナイフがあって、ランプがあって、それにお茶、ベット、仕事机、木、
ここでわたしはともだちに人形を作るんだわ。”
あとがき
この訳はわたしの初めての訳本です。 "Goldie the Dollmaker" という絵本からです。挿し絵も暖かいタッチで、内容もとても心に響く本でした。これからもこのような本を紹介していきたいと思っています。 |